受賞作紹介

島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞では、受賞作品は協力出版社から即時出版されることになっています。
ここでは今までの受賞作品と、特別に設けられた優秀作として出版された作品を紹介します。

第3回 作品
鬼畜の家
2011年4月 原書房
受賞作『鬼畜の家』著者 : 深木章子

「おとうさんはおかあさんが殺しました。おねえさんもおかあさんが殺しました。おにいさんはおかあさんと死にました。わたしはおかあさんに殺されるところでした……」 保険金目当てで家族に手をかけてゆく母親。その母親も自動車もろとも夜の海に沈み、末娘だけが生き残ることになった。 母親による巧妙な殺人計画、娘への殺人教唆、資産の収奪…… 信じがたい「鬼畜の家」の実体が、娘の口から明らかにされてゆく。

著者よりひとこと

 人は実現可能性のない夢は見ない……この言葉を知ってはいましたが、こんなにも早く夢が実現するとは思いませんでした。
 人生は本当に何が起きるかわからないもので、体が不自由になり、60歳で現役を退くまでは、推理小説とはあくまでも「読む」もので、「書く」などという離れ技は、自分とは別世界の特殊な頭脳の持主がなさることだと思い込んでおりました。

深木章子

 振り返れば、昨年の10月、福ミス受賞内定の電話をいただいて以来、未知との遭遇の連続です。何とか、無事この日を迎えることができましたが、今後の厳しい道程を考えますと、身が引き締まると同時にそら恐ろしい気がいたします。
こんな頼りない新人作家ではございますが、あたたかい目で見守っていただけましたら幸いです。どうか、宜しくお願い申し上げます。(2011年5月)


『檻の中の少女』
2011年4月 原書房
受賞作『檻の中の少女』著者 : 一田和樹

「息子は自殺支援サイト『ミトラス』に殺されたんです」 サイバーセキュリティ・コンサルタントの君島のもとへ老夫婦が依頼にやってきた。自殺したとされる息子の死の真実を知りたいのだという。息子はミトラスに多額の金を振り込んでもいたらしい。ミトラスは自殺志願者とその幇助者をネットを介在して結び付け、志願者が希望通り自殺出来た際に手数料が振り込まれるというシステムで、ミトラス自身はその仲介で多額の手数料をとるのだという。さまざまな情報を集め、やがて君島が「真相」を解き明かし、老夫婦の依頼に応えたとき、これまで隠されてきたほんとうの真実【エピローグ】が見え始める ─

著者よりひとこと

 このたびは素晴らしい賞を授けていただき、誠にありがとうございます。身に余る光栄です。
 島田先生、駐c市長をはじめ、関係者の皆様には感謝の言葉もありません。
 妻や母、私を支えてくれた人々と喜びをわかちあいたいと思います。

一田和樹

 私たちの社会は、インターネットを中心として大きく変わりつつあります。小説の書き方、読み方も変化しています。その中にあってゆるぎない存在感を持った、先駆けとなるような作品を書いてゆきたいと思います。
 最後に福山市と、福山市の皆様のさらなるご発展をお祈りいたします。(2011年5月)



主人公「私」は、妻と娘に恵まれ、仕事も順調で幸せな日々を送っていた。が、妻が持ち出した小学校時代のアルバムが人生を狂わせはじめる。それは過去を封印していた人間にとって存在してはならぬものだった。その日から恐ろしい幻影に襲われ精神的に追い詰められていった「私」は過去と対峙することに――。当時「私」には双子の兄弟がおり、北海道M市のボロアパート群、通称餓死町で悲惨な生活を送っていた......。

著者よりひとこと

 このたびは第3回福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出いただき誠にありがとうございます。私にとって島田先生の作品というのは本当に特別なものでした。十代の頃に島田作品と出合い、貪るように読み耽りました。目くるめくような衝撃を受けました。そして、はじめて自分で小説を書いてみたいと強く思いました。
私は島田先生の作品に出会っていなければ小説を書くことはなかったと思います。その島田先生に優秀作として選出いただき、これ以上の栄誉はありません。とにかくこれからはその栄誉に恥じぬよう24時間、いつでも頭のどこかでミステリーのことを考え、奇想を膨らませ、研鑽を重ね、この道をどこまでも突き進む覚悟でおります。そしていつかこの賞の価値を高め、本格ミステリーというジャンルを牽引するような作家になること。大それた考えと思われるかもしれませんがデビューできた暁には、これを目標として邁進いたします。(2011年5月)




2011年8月 講談社






厚生労働省に勤務する向井俊介は、幼馴染の女医が突然死した真相を追及するうち、ある病院を告発する文書の存在を掴み、島根と広島の県境にある雪深い村にたどり着く。
そこは変若水村。ある一族の絶大なる支配のもとに、誰も見てはならないとされる雛祭りが行われる奇妙な村だった。 相次ぐ突然死と、変若水村で過去におこった猟奇事件の謎に向井が迫る――。

著者よりひとこと

この度は優秀賞を賜り、島田荘司先生・駐c皓市長をはじめ、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の実行に携わって下さった関係者の方々に心から御礼を申し上げます。
小説を書き始めてから数々の文学賞に作品を投稿してきたものの、中々思うような結果が出ずに筆を折ろうと思ったこともありました。しかし、継続は力なりと申します。気を取り直し、今度こそと思って『変若水』を書き上げました。そして今回、優秀賞を頂く結果となり、小説を書き続けていて良かったと心から実感しております。
今後とも未聞のトリック創作に尽力し、更に面白い作品を書き上げてまいりたいと存じます。最後に、福山市と福山市民の方々の、更なるご発展をお祈りいたします。(2011年5月)





2011年10月 光文社





第2回 作品
伽羅の橋
2010年3月 光文社
受賞作『伽羅の橋』著者 : 叶 紙器

介護老人保健施設の職員・四条典座は、認知症の老人・安土マサヲと出会い、その凄惨な過去を知る。昭和二十年八月十四日、大阪を最大の空襲が襲った終戦前日、マサヲは夫と子供二人を殺し、首を刎ねたという―穏やかそうなマサヲが何故そんなことをしたのか?典座は調査を進めるうちに彼女の無実を確信し、冤罪を晴らす決意をする。死んだはずの夫からの大量の手紙、犯行時刻に別の場所でマサヲを目撃したという証言、大阪大空襲を描いた一編の不思議な詩…様々な事実を積み重ね、典座にある推理が浮かんだそのとき、大阪の町を未曾有の災害・阪神大震災が襲う―!!時を経た大戦下の悲劇を、胸がすくようなダイナミックな展開で解き明かしてゆく、人間味溢れる本格ミステリー。

著者よりひとこと

 この『伽羅の橋』は、いちど下書きをしているのですが、その間も不安で不安でしかたがありませんでした。
 こんなことを書いていいのだろうか、実直に足で稼ぐ調査が本格を名乗るにふさわしいだろうか、後半で話の性格が変わってしまうけどいいのだろうか。
そんな内容もさることながら、その分量と構成に、自分自身がひるんでしまったのです。なんといっても、下書きの段階で、三百枚ありましたから。

叶 紙器

 特に、活劇シーンで終わるという締め括りは、前半と全く違う話の展開にもなるため、長編二本を同時に書くようなものでした。無難に済ます方法もあるだろうから、分不相応なことはやめて推理ものの本分を尽くそう。そうも思いました。
 ではなぜ書いたのか。
 これは、なぜ福ミスに応募したのか、ということに密接に関係しています。それは実に単純なことで、私にとって最も選考基準の分かりやすい賞だったからです。
 島田荘司を驚かせること。
 それだけを目指せば、応募資格を得られるのです。他に何も考える必要はありません。ただ、そこにあるハードルは、高いのだろうとは分かっても、どれだけの高さをクリアしなければならないか、は見当も付きません。
 乾坤一擲を持っていこう。
 それしかないと思いました。できる全てを込めよう、そう決心しました。だからこそ、活劇シーンは採用されたのです。
 どれだけの高みにのぼれたか、書いたあともなお不安です。
 次のハードルを越えれば、少しは分かるのでしょうか。(2011年6月)


第1回 作品
玻璃の家
2009年3月 講談社
受賞作『玻璃の家』著者 : 松本 寛大

アメリカ・マサチューセッツ州の小都市。そこにはかつてガラス製造業で財を成した富豪が、謎の死を遂げた廃屋敷があった。11歳の少年コーディは、その屋敷を探索中に死体を焼く不審人物を目撃する。だが、少年は交通事故にあって以来、人の顔を認識できないという「相貌失認」の症状を抱えていた。視覚自体に問題はなく対象の顔かたちが見えてはいるものの、その識別ができないのだ。犯人は誰なのか?州警察から依頼を受けた日本人留学生・若き心理学者トーマは、記憶の変容や不完全な認識の奥から真相を探り出すために調査を開始する。真相に肉迫するにつれ明らかになる、怪死した富豪一族とこの難事件との忌まわしき因縁…。

著者よりひとこと

 本作は、少しでも新しいミステリーをという模索から生まれたものです。力が及ばなかった部分が多々あることは自覚しておりますが、栄えある福山ミステリー文学新人賞を授賞できたのも、そうした様々な模索の痕跡を評価していただいたからかもしれません。
 今後とも、ミステリーのさらなる未来へ向けての挑戦心を忘れずに、執筆に励みたいと思います。(2011年6月)

松本 寛大


少女たちの羅針盤
2009年7月 原書房
優秀作『少女たちの羅針盤』著者 : 水生 大海

短編ホラー映画主演女優としてロケ現場にやってきたマリア。そこで監督に意味ありげに言われる。「きみ、羅針盤にいた子だよね」と。マリアに忘れさりたい過去が甦る。伝説の女子高生劇団「羅針盤」。監督はさらに言う。「一人、死んでるんだよね」 羅針盤はメンバーの死と共に活動を停止した。マリアが殺したのだった。監督はいったいどこまで知っているのか。疑心はふくらむ。 そして物語は四年前、羅針盤の誕生と死へと移ってゆく。
 本作は、2010年に映画化が決定され、福山市でロケを行い、2011年5月に全国公開されました。
 また、本作の続編となる『かいぶつのまち』も2010年7月に原書房より出版されています。

著者よりひとこと

 このたびは、第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出していただき、ありがとうございます。島田先生をはじめ、事務局の皆さま、関係者の皆さまには大変お世話になりました。
 最終選考に残れば島田先生に読んでいただくことができる、そう思ってお送りした作品が思いも寄らない栄誉を受け、今もまだ戸惑いの中におります。

水生 大海

 小学校のころ、家が遠かったわたしは友人たちと別れた後、図書室で借りた本の続きを空想しながら通学していました。なかでもミステリーは謎あり冒険ありと魅力に満ちた物語でした。あのころのように、続きが気になるワクワクとした物語を作り出し、誰かに楽しんでいただきたいと考えております。
 今後も精進を続け、読む人の心をとらえて離さない物語を作り続けたい、書き続けることで優秀作受賞にお応えしたい、そう思っております。(2009年3月)



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