南小学校4年生、41人とばらの物語

南小学校4年生、41人とばらの物語

福山市が100万本のばらのまちになった

南小学校4年生、41人とばらの物語

2016年5月21日、広島県福山市に咲くばらは、
とうとう100万本を数えるまでになった。
ちょうど、市制施行100周年を迎えたのと同じ年だった。

福山市のばらのまちづくりの“はじまり”は、1956年のこと。
戦後の復興に明るい兆しをと、住民が、現在のばら公園付近に1,000本のばらを植えたことに端を発する。

以来、「100万本のばらのまち」が実現するまでには
市民と行政が心をひとつにして取り組んできたたくさんの活動と、その軌跡がある。

もちろん、活動の裏にあるさまざまな物語も。

これは、ばらのまちの原点ともいえる、
1,000本のばらが植えられたまちの小学校、福山市立南小学校の児童たちの物語。

南小学校4年生、41人とばらの物語

南小学校、とある日の授業風景

2月上旬のある日。
南小学校に2クラスある4年生全員がひとつの教室に集まって、
授業が行われていた。児童は全部で41人だ。

黒板には、先生の文字で大きく「伝統を受け継ぎ、バラを育てよう」と書いてあった。

南小学校は、ばらのまちである福山の中でも、特にばらの取り組みが盛んな学校で知られる。

4年生になった児童たちは、代々「ばらの世話係」を任される。
学校の中庭につくられたばら花壇の手入れを、
1年間にわたり務め上げるのだ。

学校の記録によると少なくとも1999年にはあった仕組みだという。

ひとり2本くらいのばらを担当し、
きれいな花を咲かせられるように、大切に世話をする。
水やりはもちろん、害虫をとったり、剪定もする。

この日の授業の目的は、もうすぐ4年生になる後輩たちに、
ばらの世話係という「伝統」のバトンをしっかり渡すため、
来たる日に向けて準備をすることだった。

この1年、自分がばらにどう向き合ってきたか、
同級生みんなと一緒に何をがんばってきたか、振り返るための時間でもある。

南小学校4年生、41人とばらの物語

花の世話だけじゃない
ばらが結ぶ心の交流

ばらの世話係としての1年間は、そう楽なものではない。

3月。「引継式」と呼ばれるセレモニーが行われる。
これは、4年生が1年かけて学んできた、ばらの基礎知識、手入れのときの注意点、
害虫や病気の種類、こんなときどうする?などなど、ていねいにびっしりと書き込まれた手引書が贈られ、
中庭花壇のばらが先輩から後輩へ、正式に引き継がれるのだ。

引継式では、ばらを世話する中での苦労体験ややりがい、喜びなどを表現した演劇も、先輩が舞台で披露してくれる。

ばら花壇での実作業は4月からスタートし、
子どもたちには慣れない害虫駆除や、地道な雑草取り、そして夏休みには炎天下での水やり当番が待っている。
1学期が一番忙しい。

4年生になったばかりの児童たちは、花咲くシーズンへ向けて、
「調べ活動」としてばらの育て方の手引書を参考に勉強しながら奮闘する。

そしてあっという間に夏休みがやってきた。
2016年の夏休みは、福山青年会議所によるアジア少年少女国際交流で、
南小学校にフィリピンやカンボジア、台湾など、アジア圏から同年代の子どもたちがやってきた。

南小の1年生から6年生まで、それぞれに一生懸命考えた方法で、
外国から来た友だちを歓迎した。

ばら担当の4年生は、自分たちが世話をしながら学んだばらの知識を披露したり、
ユニークな歌とダンスでばらの魅力を伝えた。

南小学校4年生、41人とばらの物語

ローズマインドは彼らの中に

1年の総括となる振り返り授業は、
子どもたちがばらを世話する過程で経験した“思い”を共有し合う時間だ。
彼らの正直な声を聞くことができた。

先輩からの引継式では、
「長く受け継がれてきたばらをうまく育てられるだろうか」
「がんばってばらを育てるぞ!」「早くばらを育ててみたいな」「害虫駆除って大変そうだなあ」

と不安に思ったり。

実際にばらとふれ合ってみれば、
「病気の葉をしっかり取り除かなきゃ」「小さな雑草ばかりで抜くのが難しいな」
「害虫をさわりたくないな」「ばらには、たくさんの病気があるのだな」

そんな苦悩があったり。

そして、言葉の通じない友だちとの交流では
「ばらの魅力がちゃんと伝わるか不安…」「絶対に成功させるぞ!」「ばらのこと、好きになってもらえたかな」
「言葉はわからないけど、歌と踊りで楽しんでもらえてよかった」

と、相手の気持ちを考えてみたり。

ばらをめぐって、この1年、彼らの中にはたくさんの感情や葛藤が生まれていた。

特に、外国の友だちとのコミュニケーションでは、言葉が通じない上に「うまくやろう」という責任感と、
自信のなさが一緒くたになって、不安でいっぱいだったに違いない。

ばらの知識や魅力を習得し、後任へ伝える難しさ。
ひと筋縄ではいかない植物との戦い、自分のばらに愛着を持ち、
育て上げようという気持ち、他人を喜ばせたいという気持ち、
困難は協力し合って乗り越えるという姿勢。

そんな学びを、南小学校の4年生は経験する。

ローズマインドとは、福山市が掲げる「思いやり・優しさ・助け合いの心」。

子どもたちの中には、そんなローズマインド精神が、
ばらとのふれ合いで、少しずつ芽吹いていくのだ。

南小学校4年生、41人とばらの物語

大人になっても、ばらを好きでいて

南小学校の4年生が手がける中庭のばら花壇には、
「あったか南ローズファミリー」という名前がつけられている。

授業の後、せっかくだからと、みんなで花壇を囲んで記念撮影をすることにした。
30年前の校長が建てたというモニュメントが、
どこか平和な雰囲気を醸していて、とてもあったかい印象だ。

子どもたちがはしゃぐ様子を目を細めながら見ていた校長が、こんなことを口にした。

「子どものころからばらに親しむことで、大人になってからも街中のばらに目がいくようになると思うんです。
『病気になっていないかな』『元気に育っているかな』って」

「ふとばらを目にしたとき、当たり前のようにばらを気にかけてあげられるような
思いやり優しさをもった大人になってほしい。それはばらだけでなく、人に対しても…」

そんな思いが込められたメッセージのように感じた。

南小学校の学区内には約60年前に近隣の住民が1,000本のばらを植えたばら公園がある。
そんな小学校だからばらの取り組みが盛んなのだろう。
ばらを植えた住民の想いが、子どもたちに伝えられている。