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甲状腺疾患について

甲状腺について

 乳腺甲状腺外科統括科長 池田 雅彦

はじめに

我々は乳がん治療をメインとする科ですが、実は同じくらいの割合で甲状腺疾患の診療にもあたっています。「甲状腺って何?」と思われる方も多いのですが、この臓器には内科的疾患、外科的疾患、実に多くの病気が発生し、患者数も極めて多いという特徴があります。驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本人女性の10人に1人以上が何らかの甲状腺疾患を抱えています。甲状腺疾患は、治療や患者指導には極めて専門的な知識と技術が必要で、適正な医療を患者さんに提供するには、医師もかなり勉強しなければなりません。我々のような甲状腺専門の医師は、日本甲状腺学会が認定する甲状腺専門医(主に内科医)と、日本内分泌外科学会および日本甲状腺外科学会が共同で認定する内分泌・甲状腺外科専門医(主に外科医)の資格を持っていることが多いと思います。私は後者の資格を持っていますが、現在全国で250人足らずでありますので、一般的にはその存在すら認知されていません。甲状腺疾患は、経過観察や治療が生涯にわたることがほとんどですので、維持はかかりつけ医の先生にお願いするのがベストですが、初回診断や治療開始の場面では我々のような専門家に相談されることをお勧めします。

甲状腺とは

(図1)甲状腺、上皮小体の解剖

甲状腺は、のど仏の軟骨とそれに続く気管の上に存在する、蝶々が羽を広げたような形の小さな臓器で、通常重さは15グラム程度です。その裏には米粒ほどの大きさの上皮小体(別名、副甲状腺)という臓器が左右に二つずつ存在します(図1)。甲状腺の役割は、甲状腺ホルモン(T4、T3)を分泌することです。では、甲状腺ホルモンは何をしているかというと身体の基礎代謝を司っている、つまり生体内のすべての物質の合成や分解、エネルギーの発生、消費にかかわっているホルモンで、生きていくのに必要不可欠です。

(図2)甲状腺ホルモンの調整

わかりやすく例えるなら、蒸気機関車の石炭を燃やすときの炎の役割です。この火加減が強すぎても弱すぎてもいけません。火加減の調整は脳からの命令で行われていて、脳の視床下部というところが、血液中の甲状腺ホルモンの過小を感知して、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)を分泌して脳下垂体に刺激を与えます。脳下垂体はTRHを感知して甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌します。そのTSHが甲状腺細胞に刺激を与えて、大量のT4(ヨード原子が4個)という甲状腺ホルモンが分泌されます(少量のT3も分泌されます)。しかしこのT4は炎としての働きは弱く、多くは組織中の脱ヨード酵素の働きでT3(ヨード原子が3個)に作り替えられます。このT3が炎としての働きの大部分を担っていますが、1日で半分が分解されてしまいます。ちなみにT4は半分が分解されるのに1週間を要します。そして分泌されたT3や一部T4を再び視床下部が感知して増減を司令をするという仕組みになっています(図2)。

(表1)甲状腺ホルモンの解釈

甲状腺機能の異常を疑った場合には、血液中に遊離しているfree T3(厳密にはバセドウ病のみで測定が認められています)、free T4、TSHを測定します。このパターンでもって甲状腺機能亢進(中毒)症(ホルモンが出すぎている場合)、潜在的甲状腺機能亢進症(free T3, T4は正常だがTSHが低下)、正常甲状腺機能(すべて正常値)、潜在的甲状腺機能低下症(free T3, T4は正常だがTSHが上昇)、甲状腺機能低下症(ホルモンが低下している場合)の5つの病態に分類されます(表1)。ちなみに、甲状腺ホルモンの異常な増減は日常生活が原因となることはありませんので注意してください。つまり疲れたからホルモンが異常になるとか、ストレスを感じたから数字に異常が出た、などということは一切ありません。甲状腺機能異常は、わずかであってもその陰には必ず甲状腺疾患が存在しますので、“一体何病なのか?”ということを突き詰めて調べる必要があります。

甲状腺疾患の症状

(表2)よくある受診動機

甲状腺疾患には大別して2種類あります。一つは前述した甲状腺機能異常を呈する疾患で、大部分の患者は程度に差はあるものの甲状腺全体が大きく腫れています(これをびまん性甲状腺腫といいます)。代表的な疾患がバセドウ病(亢進症)と橋本病(中毒症、低下症)です。逆に言うと甲状腺が腫れている人は必ずと言ってよいほどバセドウ病か橋本病を抱えています。

(表3)甲状腺疾患の症状

もうひとつの甲状腺疾患は、いわゆる甲状腺のしこりです(これを結節性甲状腺腫といいます)。一般的に甲状腺のしこりは甲状腺機能に影響を与えることはありません。代表的な疾患は、もちろん「がん」です。がんには甲状腺乳頭がん、甲状腺濾胞がん、甲状腺髄様がん、甲状腺未分化がん、甲状腺悪性リンパ腫、転移性甲状腺がんなど実に多種のがんがあり、それぞれ全く特性や治療法が異なります。

我々の甲状腺外来を訪れる患者さんたちの受診動機を表2にまとめてみました。自分ではじめから甲状腺疾患を疑っていた人は皆無です。自分が甲状腺の病気だと自覚するのは困難なことがわかります。では、一度症状が出たらどんな症状が出るかを表3にまとめました。あてはまるところがございましたら医療機関の受診をお勧めします。

甲状腺疾患と遺伝

甲状腺機能異常を呈するバセドウ病と橋本病は図2に示した甲状腺ホルモン調整の輪に「自己抗体」という横槍が入る疾患です。これらの疾患は免疫作用の異常が原因の自己免疫病に分類されます。どちらも原因不明ですが、明らかな遺伝性があります(ただし、原因遺伝子がまだ特定されていません)。血液検査でこの自己抗体(3種類)を測定することによって容易に診断はつきますし、発症してなくても自分が保因者かどうかはわかります。血縁の方にバセドウ病と橋本病の方がいらっしゃれば、甲状腺自己免疫疾患の家系である可能性がありますので、先に述べた症状の有無に関わらず一度は専門医を受診することをお勧めします。特に若年女性がこれらの疾患をもっていた場合、絶対的不妊、繰り返す流産、出産後の体調不良、胎児奇形など、人生を左右する重大な事態が発生することが知られています。アメリカでは米国甲状腺学会がこれら女性に対する指導や治療について極めてこと細かいガイドラインを作成しています。私もこれに準じて厳正に指導しています。ちなみに日本人女性における橋本病患者は10人に1人と推定されています。日本人の国民病とも言える疾患です。

一方で、甲状腺に発生するがんをはじめとする腫瘍が遺伝することは、例外を除いてありません。甲状腺髄様がんという稀ながんがありますが、これは遺伝的に発生することが多いので、患者周辺の親戚一同のききとり調査が欠かせません。


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