≪インタビュー企画≫やっぱり福山は、“ものづくり”のまちじゃけえ
今回は繊維産業の面から福山のものづくりに注目。低コストで大量生産された海外製品があふれるなか、それでも、いや、だからこそ、質にこだわり、楽しみながら、ものづくりをしている人たちが福山にいます。神辺の工房でお話を伺ってきました。
▲有限会社アルファ企画 広中文美さん
―神辺はむかしから繊維産業のまちとして栄えていたそうですね―
江戸時代、水野勝成が綿の栽培を奨励したことで織りや藍染めが盛んになり、日本三大絣の「備後絣」が誕生しました。その絣が近代になってデニムに移行したわけです。現在も、紡績から織り、染め、縫製と、繊維に関する技術が全てここ神辺に揃っています。アルファ企画は刺繍やレーザー加工をはじめ、ラインストーンやスパンコールなどの装飾加工など様々な業務を行っています。私は主に刺繍やレーザー加工を担当していますが、ここ10年ぐらい、海外への発注におされてる感じですね。
▲好きなデザインをレーザー加工することもできる | ▲小ロットのオーダーにも対応可能 |
―日本の繊維産業全般が抱える問題ですね―
福山のものづくりをもっといろんな人に知って欲しいし,福山でしができないものづくりができたらいいなと思っています。それで、神辺の5つの会社が集まって「和楽美」という団体を立ち上げ、その活動に力を入れているんです。
―5つの会社とは?―
みなさん歴史ある繊維業者さんで、うちの社長である父のものづくり仲間。それぞれが長年培った専門技術を持ち寄って、一つのものをつくっています。年に一度、「ものづくりCOLLECTION」と銘打ち、展示会も開催しているんですよ。今年は18社のものづくり企業が参加してくれました。
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▲エフピコRiMで2日間にわたり開催された「ものづくりCOLLECTION」 |
―輪が広がっているんですね―
はい、そうなんです。けど……、ものづくりは好きだけど、みんなどうも売るのは苦手で(笑)。それをどうにかビジネスにしていこうと、今がんばっているところです。勉強会やセミナーに参加して情報収集したり、新たに何か出来ないか若手で集まったりと、いろんなことが動きはじめたところですね。
―みなさんが愛するものづくり。ものづくりの楽しさって何なんでしょう?―
そのものが出来たときの喜びですね。そして、それを手にした方が満足してくれること、かな。けど、これまでつくる側の自己満足によるところが多くて、それを買ってもらうっていうことに重きを置いてなかった。その結果として売るのが苦手な人が多いんですよね。
―つくったものを売るため、買ってもらうために、何が大切だと考えますか?―
お客様が何を望んでいるかっていうことをいかに上手に吸い上げて、かたちにするかってことだと思います。アルファ企画は家族企業で規模も大きくはありませんが、もっと一人ひとりのお客様の希望に直接応えることが大切かな、と。個人のお客様にも満足してもらいたいんですよね。「ネットで見ました」って突然来てくれるお客様もいて、そういう方にこそ、「アルファ企画に頼んでよかった」って思ってもらいたい。だから、うちは一つ一つの発注に対して向き合う時間が長いんです。
―家族企業だから、できることがあるんですね―
大きな企業では出来ないことも実際にやっているし、できてるかなという多少の自負はあります。今は採算度外視でやってることも多いんですけどね(笑)。けど、うちから「和楽美」に所属してる企業さんに仕事をお願いするとき、「安くして」なんて言えないので、最終的にはものの価値がわかってもらえるお客様のもとにたどり着きたいっていう気持ちがありますね。そうすれば、価格を無理に下げるようなことは求められないと思うので。だから今は勉強中、がんばっているところです。
―刺繍をはじめ、紙や布、木へのレーザー加工やグラデーション加工など、日本に数台しかないすごい機械設備をお持ちのアルファ企画さん。今後、この技術を使って何をしていきたいですか?―
今は、目先のことしか考えられていないのが正直なところですが、とにかく人のためになることを、みんなでできたらいいなって思っています。ものづくりを通じて何か幸せを感じてもらえたらいいですね。何でもある時代なので、あとはどれだけ欲しがっているものを欲しがっているかたちで提供できるかってことなのかなって。小さい会社だからできることが必ずあるはずだと思っています。
―次の100年に向けて、今後の夢を教えてください―
「ものづくりCOLLECTION」を福山市内で、東京のギフトショーみたいに大きくできないかななんて、一人で考えてワクワクしたりしています(笑)。それぞれの工場に実際に足を運んでもらって、ものづくりしている現場を見てもらうんです。福山市内の工場を順に回って見てもらえたら、福山にたくさんの人が来ますよね。で、食事する、一泊する、まちにお金が落ちる、工場にも仕事が入る!みたいなことができればみんなが潤うし、みんなきっと楽しいだろうなって妄想しています(笑)。もちろん、そう簡単にはいかないですけど、福山のものづくりを知ってもらいながら福山の観光誘致ができたら最高だなって。
―ものづくりから福山全体を盛り上げる企画ですね。素晴らしい! そして、とっても楽しそうです。
私は末っ子なので、すぐこんなふうに大きなことを言いたがるんですけど、兄は、「一歩ずつ、目の前にいるお客様を大切にするところからはじまるんだよ」と、そんな私を諭してくれてます(笑)。兄は、ものづくりもお客様への対応もいつも丁寧で、「ほかに頼める業者はあっても、また兄にやってもらいたい」とリピーターが多いんですよ。
―ご家族・ご姉弟、とっても仲がいいんですね。お姉さんとお兄さんにもお話を伺ってもいいですか?―
▲左から孝祐さん(兄)、ゆり枝さん(姉)、文美さん
姉:えー。恥ずかしい(笑)。何を話せばいいですか?
―ものづくりへの思いをお聞かせいただけたら。―
姉:えっと、わたしは教員を3年間務めたあと、夢だった服をつくる仕事がしたくて服飾の学校に行きました。そして、実家であるここで働きはじめたわけなんですけど、思いとしては……やっぱり服が好きなので、刺繍がきれいに映える服をつくることができたらいいなと思ってます。刺繍だけじゃなく、この地域の素材をつかったラインストーンやレーザーカット、兄が手掛けるエングレーブと刺繍のコラボとかを服に取り入れて、さらにそれをより多くの人に知ってもらいたいと思っています。
兄:自分は絵を描くのが小さい頃から得意でした。というか、絵しかなかったんです。ある日,父に突然「お前、フォトショップ使えるだろ?明日から会社来い」と言われて。で、行ってみたらそれまで見たこともないようなレーザーカッターが用意してあって。それからレーザーで絵を描きはじめたんです。つくったものを見た友人からオーダーが入って、そのうち友人の友人、その知人の方からなど、どんどんオーダーが増えてきて今に至る感じです。唯一得意だったものが生かされたんですよね。自分が好きなことをやって、誰かに喜んでもらえることの喜びを感じています。あるのは、お客様の希望にお応えしたいという思いだけですね。
―もともとはアルファ企画を継ごうと思ってたわけではないけれど、結果として兄妹全員が揃ったかたちなんですね?本当に仲がいいんですね―
兄:いいわけではないんですけどね(笑)。
姉:けど結果、いいよねえ?
兄:ケンカもするんですけど、家族の仲がよくてうらやましいと周りの方からよく言われます。だから、最近になって仲がいいことにしようかなって(笑)。
文:まあ、いろいろありますよ(笑)。
姉:わたしはずっと仲いいと思ってたけど、勘違い?(笑)
文:まあ、いろいろありますけどね(笑)。
―今後の目標は?―
文:私は、今はとにかくここで姉や兄、父や母、そしていろんな人たちに出会って、みんなから日々学んでいる感じです。みんなの様子をみて、足を踏み出すその一歩の踏み出し方から学ばせてもらってます(笑)。
姉:私はもっと発信していきたいです。デザインもそうだし、自分たちに何ができるのかっていうのをわかってもらえていないというところがあるので、「こういうことができる」ってことを発信していきたい。「何屋さんですか?」って聞かれることが多いんですよね。刺繍のほかにもデザインであったり、服であったり、プレゼントをプロデュースするようなこともやっているので、こんなこともできるよと、ちゃんと発信できていけたらいいなと思っています。
兄:とにかく、自分が好きで唯一得意としていたことで「ありがとう」と言ってもらえることが嬉しいので、これからもその気持ちを大切にしていきたいです。福山の片田舎にあるアルファ企画ってところに行って相談すれば、何かしらのかたちになってかえってくるぞってことを、この3人でつくっていきたい。この兄妹で何かしらできれば、ここに頼んでよかったって思ってもらえるような会社にできればいいですね。
姉:とは言っても、地域やまわりの会社さんとの関係は、社長である父が築いてきてくれたとこだから、それが礎にあるってことは大きいからね。
―社長であるお父様やご家族への絶対的なリスペクトを、みなさんが根底に持っているのを感じます―
文:うちの兄は小さいときから絵を描くのが得意で、姉はアパレルの学校出身で服飾の専門知識もある。母は文章が得意で、父は言うまでもなくこれまで人間関係や技術を築いてきた。私は、それらすべてを繋いでいくのが役目だと思っています。一つ同じ工房で仕事してたらそりゃケンカもありますけど、家族みんなこれから向かうべき方向がやっと見えてきたところなんです。目の前にあることをみんなそれぞれコツコツやってきたら、やっと見えてきたって感じですかね。未来は誰にもわからないので、これからが楽しみです。