麻酔Q&A(全身麻酔についての情報)
安全で痛みのない手術をうけるためには,麻酔は,かかせないものです。
ここでは,手術室の入口からはいって出口をでるまでの順を追って,さまざまな麻酔についてご説明します。
全身麻酔
全身麻酔とは「手術のときに眠る麻酔」というイメージをお持ちの方が多いと思います。ここでは、全身麻酔の流れをご紹介するとともに、「全身麻酔」と「眠り」「睡眠」とのちがいについてもご説明します。
*ここで紹介する流れはひとつの例です。手術室に入る前から麻酔がかかっている状態の場合やその他の場合で、いくつかの違いがあります。詳しくは麻酔科におたずねください。
手術室に入ってから…
手術台(ベッド)の上に仰臥位(あおむけ)になっていただきます。
心電図のシール、血圧計のマンシェット(巻き物)、酸素飽和度モニターを体に付けます。
酸素マスクを顔につけます。
病棟からすでに始まっている点滴ラインの横から、麻酔薬を投与します。
これで、だんだんと眠くなります…
…全身麻酔で眠りに入ると、一般に、それまで自分でしっかりとしていた呼吸が弱くなり、さらには無意識のうちに呼吸をしなくなります。
全身麻酔で意識がない間は、麻酔科医が人工呼吸を行います。
呼吸バッグで必要な酸素や吸入麻酔薬を送りはじめます。さらに、次の「気管挿管」へと進みます。
※場合によっては「気管挿管」を行わず、マスクでの 呼吸管理や「ラリンジアルマスク」を用いた人工呼吸で麻酔を行う場合もあります。
気管挿管について
気管チューブ(左写真)と呼ばれる、太さ1センチほどの管を、口から声帯を通り気管まで入れる手技が「気管挿管」です。
チューブの先には風船(カフ)がついており、口の中のだ液や、胃から逆流してくるものなどが気管に入るのを防ぎます。
気管チューブを入れるためには、喉頭鏡(右写真)で口を大きく開ける必要があります。このとき、ぐらぐらしている歯や、入れ歯、さし歯などがあると、取れてしまう恐れがあります。
その他のモニタなどについて:
これらは必要に応じて,麻酔がかかったあと,あるいは麻酔がかかる前に局所麻酔のもと行う場合があります
血圧の値と波形をリアルタイムに表示するモニタです。
中心静脈圧(CVP)の値と波形を表示するモニタです。
スワンガンツカテーテルともいいます。心臓や循環の状態をより詳しく観察するためのモニターです。
口から食道へ細い超音波の探子を入れて,心臓超音波検査を行います。
循環器内科で行う検査と同じです。
準備が終わると、手術が始まります…
手術が終わると、麻酔を覚まします…
麻酔から覚めてくると、こちらからの呼びかけが分かるようになります。
麻酔から覚め、呼吸がご自分でしっかりとでき、体の力も十分戻ったことを確認したのちに、気管チューブを抜きます。
それから、引き続き全身状態をしばらく観察して、手術室から出てもよいと判断されると、ベッドで手術室から退室していただきます。
*手術の種類(心臓外科など大手術、手術前の全身状態に問題がある場合、手術後も麻酔や人工呼吸を続けた方がよいと判断された場合等)によっては気管チューブを手術室内で抜去せず、麻酔や人工呼吸を続けたまま手術室を退室していただき、引き続き全身管 理・集中治療を行います。
もっと知りたい!麻酔について その1
「全身麻酔」と「眠り」・「睡眠」とのちがい
時折このようなご質問をいただくことがあります。これに対して、つぎのような説明をさせていただき理解の助けとしていただいています。
「眠り」や「睡眠」と違って「全身麻酔」は麻酔薬を投与した結果起こる現象です。
全身麻酔薬にはさまざまな作用があります。たとえば、
- 呼吸を抑制する…全身麻酔薬を投与すると、自分の本来の呼吸が弱くなるか、あるいは完全に止まる現象がみられます。これに対して麻酔科専門医は、人工呼吸など適切な管理を行って身体の安全を確保しています。
- 血圧が下がる、心臓の働きを抑制するなど…全身麻酔薬の種類にもよりますが、多くの場合は全身麻酔薬の投与により全身の血管が拡張する(開く)という現象が見られ、この結果、血圧が低下します。さらに心臓の機能も抑えられるため、手術前の全身状態(脱水や出血多量などさまざま)によっては、麻酔科専門医による適切な処置が必要となります。
- 寝返りをしない!…「眠り」や「睡眠」では、一晩に何度かは寝返りをします。この理由のうちのひとつに、一定時間以上同じ姿勢をとっていると、身体のあちこちの場所に体重による負担がかかるのを寝返ることにより姿勢を変えて その負担をとるという行為を、知らず知らずのうちに行っているということがあげられます。ところが、「全身麻酔」では自分で寝返りをうつことができません!このため、同じ姿勢をとり続けることによる身体への負担を軽くするという役割を、手術室の中にいつほかのスタッフが担うことになります。手術の前に行う説明のなかでも「同一姿勢をとり続けることにより、四肢や頭部などの圧迫による神経損傷から、知覚神経や運動神経の傷害や麻痺を起こすことがある」旨を含めています。