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時代に流されることなく琴の技術を受け継ぎ守る 小田琴製作所 小田智之さん
小田 智之(おだ ともゆき)さん
貴重な伝統工芸品として全国に名を馳せる福山琴
水野勝成が福山城を築いたころに始まったとされる福山琴の歴史。江戸時代の城下町では、武士や町人の子女が芸事を習うことが一般的で、備後十万石の城下町・福山でも、歴代藩主の奨励により歌謡や音曲が盛んに行われました。かつて福山産の琴は全国で生産される琴の約70%を占め、福山は琴の一大産地として全国に名を馳せてきたのです。
福山琴は国の伝統的工芸品に指定され、しかも、全国に数ある伝統的工芸品の中でも楽器類は福山琴と三線(沖縄県)だけ。ほかではほとんど見ることができない希少な木材加工技術や伝統技法が随所に生かされた福山琴は、わがまちが誇る貴重な財産です。
時代に流されることなく琴の技術を受け継ぎ守る
1968年(昭和43年)創業の『小田琴製作所』。小田和幸さんと智之さん親子が、琴の製造や修理を行っています。2代目の智之さんは、職業訓練校で木製家具の製造を学び、家具関連会社で経験を積んだ後に琴製作の世界へ。幼いころから琴は身近な存在であり、職人になることは自然な流れだったそう。
最盛期には琴の製造業社が 20 社近くあり、福山市全体で 500 人ほどの職人がいましたが、福山琴を製造する事業者は現在6社。琴が嫁入り道具の必需品とされていた時代は、作っても作っても足りないほどだったそうです。生活様式が変わり、琴に触れる機会はずいぶん減ってしまいましたが、琴職人たちは時代を越えて伝統技術を守ろうと奮闘しています。
横のつながりを大切に琴業界を盛り上げたい
琴作りはほとんどが職人の手作業で行われるため、木目や蒔絵といった見た目の美しさはもちろん、音色の良し悪しを決めるのも職人の腕次第。「職人としてはまだまだ。技術は現場で見て、やりながら覚えるしかないんです。福山琴の伝統を守れるような職人になりたい」と智之さんは話します。
2022年(令和4年)には、福山邦楽器製造業協同組合と福山商工会議所と共同で、福山城の天守前広場で伐採された桐材を使った後世に残す琴を作り、福山城築城400年を盛り上げました。この琴は今後、福山城博物館などに展示されるほか、演奏会で使用される予定です。
福山琴をアピールするため、新たなチャレンジにも積極的に取り組んでいます。「琴製造は1社だけでは成り立ちません。横のつながりを大事にしながら、業界全体で福山琴を盛り上げていきたい」と意気込みを語ってくれました。
2022年(令和4年)11月取材